医療少年院での「いけばな教室」に取り組んで

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京都府  K・Mさん(60歳、女性)

〔少年院でお花の活動を始める〕

 私はMOA美術文化財団(現:岡田茂吉美術文化財団)のインストラクターとして、お花を通しての活動を行っています。
 平成13年4月から、インストラクターのTさんのピンチヒッターとして医療少年院の「いけばな」の時間に行かせていただくようになりました。それまで20年以上、少年院でいけばなを教えてこられたYさんの助手をさせていただければと引き受けました。
 いけばなでは、花の美しさを発見し、その花の美しいところを花器と調和するようにいけることで、美しい花がより美しく際立ち、見る人に感じの良さが伝わります。そんな楽しさや喜びを体験してもらい「人間が本来持っている美しい心が自ずから覚醒される」ことを願って進めてきました。
 少年院でのいけばなは、当初は午前中に女子院生を対象にさせていただいていましたが、私たち部外協力者への連絡などを担当してくださっていた教官が「ぜひ男子にもいけばなをさせたい」と、少年院側の了解を取ってくださったことで、平成16年9月から、女子院生に加え、午後に男子院生のためのいけばなの時間もスタートしました。また、私たちは医療少年院の玄関・受付・会議室・院長室・次長室・女子トイレへもお花をいけています。
 毎回、いけばなの実習の前には日本の言葉の美しさを感じてもらえるようにと願いながら、和歌を2首、みんなで声を出して読み合います。そして、花をいける時は一本ずつ手にとって、花の持つ一つ一つの要素を丹念に見て、美しいところを感じていけてもらうようにしています。また、最後にみんなで一人ずつの作品を見て、感想や満足度を尋ねているのですが、回を重ねるごとに感想をみんなで喜び合えるようになってきました。

〔「いけばな」で院生の内面にふれる〕

 男子院生の棟は3棟あり、各棟1ヶ月ずつ順番にまわっていました。剣山や陶器の花器、花ばさみは危ないので、工作ばさみ、牛乳パックを利用した花器を作っています。出席は3名から多い時は15名でした。最初は“男がいけばななんて”と思っていた院生も多かったようですが、次第に楽しみながら花をいけられるようになっていきました。いけ終えた花は全て食堂に飾ってもらいましたが、「食事の時、花があっていい」と言う子も出てきました。
 平成20年には、首席の先生から「集団行動のできない症状の重い院生こそ花に触れることが必要ではないかと思う、いけばなを通じて、その子の内面を知る参考にしたい」と言われ、その年の4月から精神疾患の重い男子対象にいけばなをすることになりました。
 1回目は2人が出席しました。少年院に入ってから半年ほど経っているというA君は、院長先生の診察の時、質問に対して「あー」「うん」と顔をそむけたまま言うぐらいで、まったく話さない子なのだそうです。しかし、お花をいけ終えた後に私たちが感想を尋ねると「良かった、綺麗にいけられて良かった」と言い、満足度を尋ねると「70%。マイナス30%は次にもっとうまくいけられるように」との答えが返ってきて、見学に来られていた院長先生は本当にびっくりしておられました。その後、院長先生は「いけばなをすることで、院生の診察時の話題が増えました。お花に助けてもらっています」とも言ってくださいました。

〔院生の変化〕

 院生たちは、はじめのころ、バラを1本だけいけて「バラの孤独を表した」とか「寂しさをいけた」と言ったり、エビデンドロの花を短くちょん切っていけて、きれいな葉のついた残りの茎を花の後に差すと「この茎は切られて死んでいる」と言ったりするなど、自分の思いを表す手段として花をいけているようでした。しかし、そういう思いを否定しないで見守っています。それは花とふれあう中で、自然に花をいかそうという心が育ってくるからです。
 その後、それぞれ進み具合は違いますが、「花がかわいい」とか「色がきれいだ」と花の美しさに気づけるようになり、1本だけいけていた子も何本もいけるようになったり、「孤独なバラと比べてどう?」と尋ねたりすると「気持ちいい」と答えるようになります。
 B君は「花束のイメージでいけた」と言っては、こじんまりとした花束のようなイメージでいけていましたが、しばらく続けるうちに枝ぶりの面白さや、目に見えない空間というものも意識していけるようになってきました。

〔少年院の美の環境整備が進む〕

 平成20年9月、牛乳パックで作ったサークルの花器を、籠にしてもよいという許可が出たのですが、このころから花と花器が調和した美しさが院内に広がってきています。
 以前に比べ、少年院の中は年々庭の手入れも行き届き、花壇の花も増え、廊下には花を植えたプランターが並び、環境が美しく整えられてきています。平成22年の成人式には講堂の演壇下にもプランターが並べられましたが、さらに院長先生が「花が少ないので8名分の花束を注文した。会場に飾った後、成人した院生に贈る」と言われました。今まで院生に花が贈られたことは一度もなかったそうで、私たちは“少年院の中でお花の大切さを感じてくださっている”と嬉しく思いました。
 院生のみなさんには「心が美しくなるということは、心が豊かに育ち、相手を思いやる優しい心が生まれ、誘惑に負けない強い心になることで幸せになることですよ」と語りかけていますが、出院しても花をいけて楽しむ生活を送ってほしいと願っています。

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