一般社団法人日本統合医療学会 仁田 新一 名誉理事長

統合医療は未来型医療の柱

 超高齢社会に突入している現在、多くの人が長生きできるようになった。その背景には、医療の進歩、発展があることは揺るぎない。その一方で年間40兆円を超える国民医療費、保健医療制度の在り方、医師や看護師などの人材不足、求められる医療サービスの多様化など多くの問題が浮き彫りになってきている。
 東北大学名誉教授である(一社)日本統合医療学会の仁田新一名誉理事長は「このままでは医療は破綻してしまう」と語る。そうした現状を打破すべく、長年にわたり「未来型医療」としての統合医療を提案してきた仁田名誉理事長に、新しい時代が求める医療の姿についてお話を伺った。

── 先生は早くから統合医療に携わってこられましたね。
 30年ほど前、ソニーの創業者である井深大さんから「東洋医学の科学的研究を」と要請され、東洋医学の脈診を数値化する脈診計を開発したことがきっかけで、西洋医学と東洋医学の違いを埋めるのが私の役割だと考えるようになりました。
 同じ病気であっても、患者さんによって体質も症状も違います。また今の西洋医学だけでは治らない病気もあります。ですが、病気に苦しむ患者さんは目の前にいるのです。必要なのは患者さんのための医療です。西洋医学だけでなく東洋医学をはじめとする他の治療法も選択できる医療、いろいろな治療法のプロが、それぞれに知恵を出し合い、連携して一人の患者さんのために仕事をする、それが統合医療です。
 統合医療の概念がアメリカで生まれた当初は、代替医療と言っていました。西洋医学が駄目だから代替する、つまり取って代わるものという考え方です。当然、西洋医学を進めている人たちとは対立しました。日本にもそのまま入ってきたので、日本の医学界からも快く思われませんでした。渥美和彦先生が日本統合医療学会の理事長になり、西洋医学と対立するものとの誤解を解くために大変にご努力されました。
 その後理事長を引き継いだ私は、医学界や国民に正しい理解を持ってもらうために、学会として、まずは鍼灸のエビデンス(科学的評価)を得るための研究を行いました。東洋医学でいうつぼにはりを刺すと、その信号が脳まで届いていることを明らかにする研究です。例えば目に良いとされているつぼにはりを刺すと、それを情報として取り入れる脳の部分と、目を動かす脳の部分の両方に信号として届き、血流変化が起きることを証明しました。免疫力のアップということでも、昔は何の証明もなく言われていましたが、運動後の免疫細胞の活性化など、いろいろな点で免疫力の可視化ができるようになっています。
 アメリカのテキサス州立大学MDアンダーソンがんセンターでは、末期がんの患者さんに鍼灸やヨガ、漢方薬、瞑想(めいそう)などを併用したところ、抗がん剤の副作用が64%も軽減したそうです。西洋医学の治療とその他の治療が相乗効果を発揮した結果です。
 これらのエビデンスの蓄積によって、西洋医学以外の医療に対する医学界の認識も少しずつ変わってきています。

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