大阪大学大学院医学系研究科 伊藤 壽記 特任教授

地域包括ケア型の医療システムを

 世界に先駆けて超高齢社会に突入した日本。日本の社会保障費は、国の一般歳出の半分以上を占め、さらに増加傾向にある。医療の質を落とさずに医療費をどう適正化するかが重要な課題となっている。
 大阪大学大学院医学系研究科の伊藤壽記特任教授は「日に日に高まる医療や介護のニーズに応えるには、現在の医療システムには限界がある」と指摘する。

── 医療を取り巻く課題についてお伺いできますか。
 まず私たちが考えなければならないのは、日本は世界に先駆けて超高齢社会に突入しているということです。65歳以上が全体の7%を超えた状態を「高齢化社会」、14%超で「高齢社会」、そして21%を超えると「超高齢社会」と呼ばれますが、日本は高齢者の割合が既に25%を超えています。他の先進諸国は高齢化社会から高齢社会に達するのに40~100年かかっていますが、日本はわずか24年で超高齢社会にまで到達してしまったのです。
 2014年の日本人の平均寿命は、男性が80.5歳、女性が86.83歳ですが、病気にかからず健やかに過ごすことができるまでを示す健康寿命は、男性が71.1歳、女性が75.5歳と、平均寿命との差が約10年あります。この差を縮めること、すなわち亡くなるまでできるだけ元気でいていただくことが、大きな課題なのです。

── 人生の最晩年を病気と共に歩んでいる人が多いということですね。
 戦後間もない頃、日本人の主な死因は、結核などの感染症や栄養失調でした。これらは原因が非常に単純ですから、治療法さえ見つかれば治せました。高血圧症も脳梗塞と同様に、単純系ではなく、複雑系の理解となります。その当時多かった脳血管障害も、高血圧症が引き起こす脳出血がほとんどでしたから、その後、降圧剤が開発されると死亡率は下がりましたが、原因が単純な病気は、医療の進歩によって治せるようになったのです。
 ところが同じ脳血管障害でも、現在では動脈硬化によって血管が詰まって起こる脳梗塞が多数を占めます。これには、脂肪分の多い食事、運動不足、過重なストレスなど複数の原因があり、どれか一つだけを除いてもなかなか良くなりません。病気は単純系から複雑系へ、そして慢性化へと変化してきたのです。

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