大阪大学大学院医学系研究科 伊藤 壽記 特任教授

セルフケアを徹底し生活習慣病と向き合う

── 今は生活習慣病がほとんどだと。
 そうです。死亡原因の多くは、がんを中心とした生活習慣病がほとんどです。さらに病態が複雑になっていますから、一つの診療科や一人の医師では担い切れません。診察が複数の診療科にまたがることも多く、おのずと医療費もかさみます。国民医療費は右肩上がりで、ついには40兆円を超えました。国民所得費に占める割合が10%を超えていることも、大きな問題でしょう。
 生活習慣病の一つである糖尿病は、心筋梗塞、脳梗塞、網膜症による失明などの合併症を引き起こす病気です。約30万人が人工透析を受け、一人当たり年間で約600万円の医療費がかかっています。
 例えば、糖尿病と診断されたAさん、Bさん、Cさんがいます。この3人の生涯の医療費を比較してみましょう。Aさんは診断されるとすぐに生活改善の努力をして、医療費は800万円でした。Bさんは生活改善を心掛けるも何度も挫折し、そのうち合併症が出てきて医療費は1,400万円になりました。Cさんは70歳まで何もせずに重症化して透析を受け、10年間の医療費は7,000万円にもなってしまいました。

── 驚くべき結果ですね。
 この一例だけを見ても、いかに生活習慣を見直すことが大事かということが分かりますね。
 生活習慣病と診断されたら、基本的には根治は難しいと言わざるを得ません。薬を飲めば血圧も血糖値も下がりますから、患者さんはそこで安心してしまいます。でも、実は症状が抑えられているだけで、病気が治ったわけではありまん。薬は長く飲み続ければ副作用も出てきますし、徐々に効きにくくもなります。そうした危険性も薬代も、病気の原因である生活習慣を改めない限りは増える一方です。
 前述したように、超高齢社会を背景に高度な医療が求められるに従って治療費も高額になり、薬代などと合わせたトータルの医療費はどんどん膨らんでいるのです。それを抑えるために一番良いのは、病気にならないように、普段から健康の自己管理(セルフケア)をすることです。

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