対談 上智大学グリーフケア研究所 島薗 進 所長、一般財団法人MOA健康科学センター 鈴木 清志 理事長

命のつながりに思いを託す大切さ

鈴木 東日本大震災のお話が出ましたが、私も震災後に被災地に行きました。避難所をいくつか回りましたが、けがをしている方はほとんどいませんでした。津波によって亡くなるか、助かるかというはっきりとした線引きがあり、その結果生き残った方々に対して、西洋医学は無力でした。眠れない、お腹が痛い、頭が痛いと訴える人に薬を処方しても、症状は改善しなかったのです。そして水がなく、ガスは使えず、電気もない状況では、西洋医学はほとんど役に立たないことを、私だけでなく被災地に入った医療者の多くが感じたと思います。
 私たちMOAの医療チームは、美術と食のエキスパートも一緒にまいりました。温かい食事を作って差し上げると、皆さん大喜びしてくれました。お花をいけてもらったところ「灰色だった世界がすごく明るくなった」と言われ、笑顔を見せてくれました。他の医療チームでも、アロマセラピーやマッサージなどが喜ばれていました。西洋医学だけでなく、効果のあるものを組み合わせて、体・心・スピリチュアルなケアをする統合医療が、これからの医療には必要だと強く感じましたね。

島薗 阪神淡路大震災の後に、災害支援活動として定着したものに足湯があります。タライやバケツに足を入れて、手をもんだり、さすったりするのです。そこにアロマセラピーも加わったりするのですが、お互いの心が和らいで、温もりが伝わるのですね。これって、岡田式浄化療法と似ていませんか。
 浄化療法では、施術中は直接触れ合いませんが、お互いの温もりが伝わり、心が和らぎ、お互いの命が通い合って、目に見えない力を感じるようになる。新しい癒しの力が与えられるということではないでしょうか。
 マインドフルネスにも通ずるものがありますが、こうした統合医療は世界的にも重要性が高まっていると思います。バイオメディカルという生物学的な医療を超えて、スピリチュアリティに到達することが大切なのです。

鈴木 浄化療法がどんな病気にどんな効果があるかについては、客観的な評価を大事にします。しかしそれ以上に、人と人との支え合いや癒しとしての効果が大きいのです。コミュニティーの中で互いの健康を支え合い、幸せな生活を営む上で、浄化療法の存在は欠かせません。浄化療法は体・心・スピリチュアルな健康を増進する方法であることを、私たち自身がきちんと認識しておくことは、MOAが目指す医療の鍵だと思います。

島薗 MOAが進めてきた自然農法も、浄化療法と同じように考えて良いと思いますね。
 自然農法は、全くの祈りの世界、つまり自然にお任せするという考え方を大切にする人もいるでしょう。しかし、技術的に改良できることを積み上げながら、自然の力を引き出す。MOAはそうした努力を積み重ね、それが有機農業を実施する農家の人たちの参考になっていることは、とても意義深いと思います。
 作物を育ててくれた土や太陽や水、すなわち自然と向き合うことで、命の恵みのありがたさ、命のつながりに思いが至るわけです。「いただきます」「ごちそうさま」「おかげさま」「ありがとう」という言葉への感覚は、とても重要です。現代文明には、それが弱まっている危機感を持ちますね。宇宙があり、地球があり、自然があり、その自然とつながる中で私たちは生かされている。そうした考えを大事にして、次世代に伝えていきたいと思いますね。

鈴木 自然農法の実施者が報われるお話しまでもいただき、ありがとうございました。

しまぞの・すすむ
1948年東京都生まれ。東京大学文学部宗教学・宗教史学科教授、同大学院人文社会系研究科教授を経て、現在、上智大学大学院実践宗教学研究科委員長・教授、同グリーフケア研究所所長。東京大学名誉教授。日本宗教学会元会長。著書に『スピリチュアリティの興隆―新霊性文化とその周辺』『国家神道と日本人』(共に岩波書店)、『精神世界のゆくえ― 宗教・近代・霊性』(秋山書店)、『日本人の死生観を読む―明治武士道から「おくりびとへ」』(朝日新聞出版)など。

すずき・きよし
1981年千葉大学医学部卒。医学博士。榊󠄀原記念病院小児科副部長などを勤めた後、成城診療所勤務を経て、(一財)MOA健康科学センター理事長、医療法人財団玉川会理事長、玉川会MOA高輪クリニック・東京療院療院長。統合医療学会理事。日本小児学会専門医。94年日本小児循環器学会よりYoung Investigator’s Awardを授与される。

この記事は機関誌『楽園』72号(2018夏)に掲載したものです

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