重要無形文化財「蒔絵」保持者 室瀬 和美 さん

子どもたちを変えた自然素材のエネルギー

── 触れて体で感じることには、とても大きな意味があるのですね。
 それを一層強く実感したのは、震災復興支援の一環として、MOA美術館と日本工芸会が協力して進めている、東北の子どもたちへの工芸ワークショップを通してでした。
 実際に自分の手を動かして何かを作り始めると、子どもたちの目の輝きが変わってくるのです。普段はおとなしい子が積極的に質問を重ね、落ち着きがないといわれていた子がとても集中している姿に、先生方が驚くことも珍しくありません。これが自然の素材に触れることで得られるエネルギーだなと感じますし、手を動かしてものを作る行為が、心を柔軟にさせるからなのでしょう。
 見本とは全く違うことをしたり、器物に自由に絵を描きだしたりする子を、その発想が面白いねと褒めると、表情はさらに輝き、創造性がどんどん広がっていきます。心を自由にしてくれるものづくりの楽しさを知り、自信を得た子たちは、日常にも変化が起きてくるそうです。

── それはまさに、教育の場で願われている「生きる力の育成」ですね。
 誰でも、手を掛け、苦労して作ったものには愛情が湧き、大事にしようと思いますよね。こんなふうにしてものはできていくんだと知れば、他のことへの興味も広がり、深まっていきます。
 それと、いろいろな素材に触れてみると、丈夫なもの、繊細なものなど、たくさんの違いを肌で感じ取れます。それはやがて、物だけでなく人への接し方をも変えていくと、私は思っています。物にも人にも長所や個性がありますが、それはどちらが良いと比べるようなものではなく、それぞれの良さがある。そしてそれらを最大限に生かした時、どちらも一番輝くのだと。
 これは、機械による大量生産品からでは感じられないことでしょう。ですから私は、特に子どもたちには一生に一度でいい、自然素材に触れてのものづくりを通して、何かを感じてほしいのです。感じられる子は、考えることもできるようになります。もちろん、大人だって同じです。
 そうした場の提供を、MOA美術館とも協力しながら、さらに進めていきたいと考えています。

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