重要無形文化財「蒔絵」保持者 室瀬 和美 さん

非日常で養う感性と暮らしの中で養う感性

── ものづくりのように特別な体験の他に、日常ではどのようなことができるでしょう。
 創作ということでいえば、MOA美術館児童作品展でも取り組んでいる絵画や書は、誰にでも親しみやすいですよね。また、美術品や演劇、映画、音楽などを見たり聞きに行ったりして楽しむのも素晴らしいと思います。
 勉強しに行くのではないのですから、後で忘れてしまったって〝これは私に合わない〟と感じても構わないのです。それを繰り返していくうちに、こういうものが好きだとか、ほっとするなど、少しずつ分かってきます。それが、自分なりの価値基準をつくり上げていくのです。
 あるいは同じ美術品を見るにしても、年代やその時の気持ち、環境などによっても、感じることは驚くほど変わります。相手が変わるはずはないのですから、自分の中で何かが変わったのですよね。そうやって何か一つのものと定期的に向き合うのも、自分の変化に気付きやすいのでお勧めですね。

── 感性はそうやって、意識して何かを作ったり、どこかへ行ったりしないと磨きにくいものでしょうか。
 むしろその人の感性をつくり上げているのは、ささやかでも、毎日積み重ねられる無意識の行為ではないでしょうか。その最たるものが食事だと思います。この時間を楽しく、豊かなものにすれば、知らず知らずに感性は磨かれていくでしょう。
 そこではぜひ、漆器や陶磁器など自然素材の、大量生産品ではない器を一つ、使ってみていただきたいのです。家の中だから何でもいいではなくて、自らちょっとした緊張感を演出すると、人生は彩りを増していくような気がします。
 気分や場所によって身に着けるものを変えるように、器だって特別な時、リラックスしたい時など、その日の気分や料理、季節によって変えてみませんか。いろいろな質感を肌で味わいながら、自分の感性を養う食事の時間を存分に楽しんでいただきたいですね。
 意識して、たとえ1日に10分でもそうした時間をつくると、人生という時間の流れが豊かに感じられてくると思います。

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