第4回 有機・自然農法の作物の特徴

(一財)MOA健康科学センター理事長
鈴木 清志

 前回の「生命力あふれる有機・自然農法の土」をまとめると、有機農業も自然農法も土の力を生かす農法であり、さまざまな微生物が生息できる環境(生物多様性)の確保が重要です。そのために有機農業は良質の堆肥を用い、MOA自然農法は土の物理的な特性を整えることに力を注ぎます。今回は、こうした土の特徴が作物にどんな影響を及ぼすのかをお話しします。

1.自然農法の作物の特徴


 専門家に伺うと、作物の根を見ると自然農法かどうかが分かるそうです。以前に静岡県伊豆の国市の大仁農場で、ガラス槽に土を入れて育てたキャベツの根を見たことがあります。自然農法のキャベツは1m以上の深さまで広く根を伸ばしているのですが、慣行農法のキャベツはその半分も根を伸ばしていないのです。こんなにも違うのかと驚きました。
 
 自然農法では、土の通気性と、深くまで伸びた根の先端にまで水が浸透して余分な水は蒸発するという水の循環が大切で、そのために土の柔らかさが重要です。では、自然農法の作物は、なぜ深くまで根を伸ばすのでしょうか。実は作物の生育に不可欠な窒素が、自然農法の田畑では深い部分に多いのだそうです。窒素肥料を混ぜなくても、土の深い部分にまで根を伸ばし、そこに水分があって呼吸ができれば、立派な作物が収穫できるのです。一方、慣行農法では、十分な肥料を与えるので、根を伸ばす必要がないのです。その行きつく先が液体肥料を用いた水耕栽培で、土を用いなくても作物はできます。
 
 自然農法の稲は地中深くまで根を張るので、台風などの風水害の時も倒れにくいと聞きました。また1993年の記録的な大冷害では、慣行農法は大きな被害を受けたのに、自然農法では比較的収穫できたことが、新聞でも取り上げられました(写真1)。2021年の北海道での干ばつでも、自然農法の作物は土の深くまで根を伸ばして水分を吸い上げたことで、収穫量がそれほど落ちなかったそうです。
 
 慣行農法では、連作をすると土の栄養分が偏って発育が良くないので、翌年は作物を前年とは違う場所に植えます。一方、手入れの行き届いた自然農法の圃場では、土の微生物がその作物に適した環境を作るので、連作の方が収穫量が多いそうです。大仁農場でニンジンの畑を見ましたが、連作した畑の方が発育が良いのです。慣行農法の常識で自然農法を見てはいけないのだと分かりました。自然農法を何年も続けると、害虫を食べる天敵が増えて、結局害虫が減ることも多いそうです。

2.自然農法の作物は腐りにくい


 自然農法の作物は、どのくらい腐りにくいかご存じですか? 写真2は、30年前にビン詰めした米です。慣行農法米は茶色に変色して腐っていますが、自然農法米は一粒一粒が白くはっきりと見えます。
 
 我が家でも夏休みの自由研究で、自然農法と慣行農法の作物の腐り方を調べたことがあります。慣行農法の野菜はドロドロに腐るのですが、自然農法の野菜の多くは干からびました。水に浸した自然農法の米は、翌日には甘酒のような良い香りがしましたが、慣行農法の米は翌日から嫌なにおいがしてカビが生えました。これは簡単にできる実験なので、興味のある方は試してください。


 自然農法と有機農業、慣行農法の3者の違いが分かるデータは少なく、写真3はその一例で、鹿児島市の実験圃場で育てたニンジンです。自然農法のニンジンはご覧のように細くて小さく、この年は収穫量も少なかったのですが、香りや味は他の農法よりも良かったそうです。自然農法で収穫量を確保するには、やはりコツがいるのですね。さまざまな苦労の末に手元に届く自然農法の作物を、感謝していただくようにしたいものです。
 
 次回は、有機・自然農法が作物の成分や動物に及ぼす影響についてお話しします。

【プロフィール】
すずき きよし
1981年千葉大学医学部卒。医学博士。榊原記念病院小児科副部長、成城診療所勤務、(医)玉川会MOA高輪クリニック・東京療院療院長などを経て、(一財)MOA健康科学センター理事長、東京療院名誉院長。(一社)日本統合医療学会理事・国際委員会委員長。94年日本小児循環器学会よりYoung Investigator’s Awardを授与された。

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